文庫へは数回行っているが、見学記は初めてである。通例の展示だと国宝称名寺聖教・金沢文庫文書など文庫、称名寺関連のものが多数を占めているので、私にはなかなかコメントしづらい。今回は『安達一族と鎌倉幕府』ということで、テーマにひかれて見に行った。サブタイトルは「御家人が語るもうひとつの鎌倉時代史」である。江戸幕府の家臣(旗本など)や戦国大名の家臣は近年取り上げるケースが多くなったが、鎌倉幕府の御家人をタイトルに据えた展示は珍しい。代々秋田城介を名乗り、御家人の筆頭として政治を動かした。特に引付衆、御恩奉行などを歴任した安達泰盛は名高い。最後は弘安八年(1285)の霜月騒動で滅亡した。そのため安達氏関連の文書、遺物は多くない。
展示で一番目立つには如意輪観音座像、四天王像(宮城県天王寺蔵)である。安達氏の信仰の一端を物語っている。文庫の展示で今回やや異質だったのは鎌倉市内からの武家地の出土遺物である。墨書木札、サイコロなどである。特に大鎧一領分が間近で見られたのは良かった。また蒙古襲来絵詞や曽我物語絵巻もあり、安達氏の幕府内での位置付けが分かる。扇ヶ谷村絵図、高野山金剛峯寺町石拓本などもあり、文書類以外の分野が多彩であったのが今回の展示の特徴であるといえよう。刊行物は図録と展示品リストがある。図録は論考が多数載っており参考になる。
現在の文庫は北条実時が作った文庫の流れの中にある。昭和五年(1930)に称名寺の寺域内に神奈川県立として復興されたが、1990年現在の地に新築で移された。二階建てのうち一階は常設展示室、二階は特別展示室であるが、あまり広くないのでどうしても展示規模が制約されてしまう。京浜急行電鉄本線金沢文庫駅からバス便もあるが遠回りになるので、雨天でなければ徒歩で行きたい。近道すれば15分で着く。時間があれば迂回して称名寺を見学してからも行ける。
<h3>2018年7月20日から9月17日まで開催</h3>