秋の展示シーズンはその年によって見たいものが多い県と少ない県がある。愛知県は毎年のごとく見に行っている県である。この館も4回目の見学記である。タイトルは『加賀本多家』、サブタイトルは「その歴史と至宝」である。全て他館である加賀本多博物館(金沢市)の収蔵品であり、自分の館のものが一つもないというのは珍しい。サブタイトルにあるように大きく歴史と至宝に分かれる。前半は歴史の部である。加賀本多家は徳川家康の側近である本多正信の次男の政重から始まる。長男は宇都宮藩主で後に改易される正純である。政重は大谷吉継、宇喜多秀家、福島正則、前田利長、上杉景勝と目まぐるしく主君を変え(渡り奉公)、慶長十六年(1611)に前田利常の代に加賀前田家に再仕官した。その後は加賀八家の筆頭として中規模大名並みの五万石を領した。従来からの家臣ではない政重が重用されたのはそれだけ有能な士であったからであろう。正信段階では本多正信像、本佐録、三葉葵紋鞭などが、そして政重関連では政重所用具足、政重画像、御水尾天皇口宣案などが並ぶ。加賀藩に定着してからは家臣関連(約九百人もいた)の本多安房守組人持交名帳、本多家分限帳など、絵図類の上屋舗御館惣絵図、御中屋敷御館絵図などが展示されている。後半の至宝は武装と文化の二つの章からなる。前者は馬具一式の他烏帽子形兜、二階傘瓢馬験など、後者はお輿入れ品の他伊勢物語、土佐日記などが並び豪華絢爛である。一つの大名家(に準ずる)ゆかりの品々が今までまとまって残っている
のは貴重な存在である。今回は政重に焦点が当たった分、幕末まで12代に渡る歴代の当主の事績は少なかった。しかし、政重の出生地である三河で開かれたことは意義深い。刊行物は図録がある。
2021年10月2日から11月14日まで開催
2021年10月24日見学
2021年10月31日記