今年の見学記はもう無いであろうと思っていたが、古河市へ行った時の展示が良かったので紹介する。タイトルは『幕臣 福田道昌』、サブタイトルは「浪人から甲府町奉行までのぼりつめたSAMURAI」である。キャッチコピーに従五位下叙位・甲斐守任官一六〇年とある。よほど江戸幕府の幕臣に詳しい人でないと福田道昌なる人物は知らないであろう。名主福田家の一族であり、浪人の出であった道昌は文政一一年(1828)頃、一代限りの御家人に採用された。その後、世襲の御家人となり、ついに旗本に出世した。それからも甲府代官、西丸裏門番頭、勘定吟味薬役などを歴任し、文久二年(1862)には従五位下甲斐守になった。中級の旗本であるが、優秀な実務官僚といえる。
展示数60件の内、1件を除き館蔵の長左衛門新田福田家文書である。江戸城や日光山等の図の他に代官、江戸城本丸再建、日光山修復などに関する道昌の事績が年を追って文書で紹介されている。任甲斐守の宣旨、叙従五位下の口宣案、位記も見所である。武士以外から旗本になった人物に青木昆陽、川崎定孝などがいるが、彼らに勝るとも劣らない活躍であった。まさに知る人ぞ知るである。江戸時代は一般的に士農工商の身分制度が厳しいといわれるが、有能な人物を登用した柔軟性が幕府にはあった。一つの旗本の家の史資料がこれだけまとまっているのは貴重である。地域の資料館らしい興味深い企画であった。刊行物は無料のリーフレットと釈文集がある。長左衛門新田福田家文書の全体の史料集をぜひ作って欲しい。
資料館は2005年に古河市に合併した旧三和町にあり、図書館と同じ建物にある。常設展示は無く、年2~3回の館蔵資料展や企画展を開いている。交通の便はJR宇都宮線古河駅からバスが出ているが、本数が少ないので注意が必要である。
2022年10月29日から12月25日まで開催
2022年12月18日見学
2022年12月25日記
画像は『展示資料解説書』から。