埼玉県立文書館見学記3

 年内はもう見学記を書くほどの展示はないと思っていた。期待していなかった分、内容が良かったのでレポートしたい。タイトルは『古物を伝える(メッセージ)』、サブサブタイトルは「好古家たちのさいたま」である。江戸時代後期から明治時代にかけて庶民の間の知識人は相当な博識であった。中でもいわゆる郷土史家の前身ともいうべき好古家と呼ばれる人々がいた。いろいろな史資料を集め、そして写している。地域の中だけでなく広い範囲のものを対象としている。六波羅御教書、北条氏邦書状や上田長則法度写などである。また、交友関係も広く、全国の知識人とネットワークがあった。好古雑誌、明治十三年親友帖などが出ている。今回は特に根岸武香を取り巻くE.Sモースからの感謝状、松浦武四郎書簡などもある。小室元長は小田原北条氏所領役帳の研究をしていた。写しが4種類ある。また、出版活動も盛んで鎌倉大草紙や新編武蔵風土記稿などが刊行されている。武蔵武士の典型である畠山重忠の顕彰も行われ、修建畠山重忠公断碑記の拓本、畠山重忠城跡之図写などがある。好古家の足跡は遺物遺跡の保存にまで及んでいる。代表例に吉見百穴の発掘保存を取り上げている。意見上申書(百穴保存ニ付)、百穴事務所建設費明細帳等が並んでいる。貴重な史資料が今日まで伝わっている経緯が良く分かる展示であった。刊行物は展示資料一覧の他に14ページのリーフレットが配られている。

2021年12月14日から2022年2月13日まで開催

2021年12月21日見学

2021年12月28日記